医療人類学って何ですか?

「医療人類学って何ですか?」

何かの取材を受けるたびに聞かれるこの質問。実はこれ、答えることがとても難しいんです。

まず差し当たり、医療人類学をネット検索したら必ず一度は訪ねるであろう大阪大学の人類学者池田光穂さんのページをご紹介します。

スライドの2枚目に明確に書かれているのでもはや説明の必要はありませんが、もはやクリックすら手間になっているこの時代なので転載をしておきます。

医療人類学とは

・健康と病気を対象にした人類学的研究を医療人類学と 呼ぶ。

・人文社会科学に対しておこなった医療人類学の最大の 功績は「人類にとって医療とは多様な顔をもつ実践の 集合体であり、西洋近代医療はそのひとつの姿にすぎ ない」ことをさまざまな具体的事象(=医療民族誌) の提示を通して明らかにしたことである。

池田光穂

これ以上簡潔な説明はなさそうなのでここで止めてもよいのですが、おそらくこれを読んだ人の次なる質問は「人類学的研究って何?」でしょう。

池田さんはきっと人類学についても説明してくれているに違いない。検索してみると…ほら、ありました。こちらです。

あれ、でもこれは「文化人類学」って書いてあって、「人類学」じゃないじゃない、「文化人類学って何よ?」って思った方いましたか?そんなあなた、鋭いです。

文化人類学は人類学の一分野です。人類学には大きく、考古学、自然人類学、言語人類学、文化人類学の4分野があります。医療人類学は、文化人類学の下位領域、あるいは最近加わった第5番目の領域として位置付けられることが多いです。

加えて医療人類学に関しては(英語ではMedical Anthropology)、「その名前自体そもそも適切なの?」という議論もあります。

このページにきたら医療人類学とは何かがわかると期待してきた皆さん、ここまできたらもう混乱ですよね。余計わからなくなりましたよね。ごめんなさい。定義ってなかなか難しいんです。

注1:さらに混乱させて申し訳ないのですが、冒頭で紹介した池田光穂さんはご自身がなした医療人類学をのちに書き換えています。詳細はこちら

それでも「医療人類学」を一言で言ってみよう(思い切って)

とはいえ、こんなポストを作ったんですから池田さんに丸投げせずに、自分の言葉で説明しないといけません。

なので磯野版「文化人類学」&「医療人類学」を下に記します。

文化人類学とは

人々にとって世界はどのようであるのかを、それぞれの人の視点にできる限り立ちながら観察、聞き取り、資料調査を通じて明らかにしようと試み、その知見から人間とは何かを明らかにしようとする学問。

いそのまほ

医療人類学とは

人が生まれ、死んでゆく過程において、人々は自ら及び他者の身体をどのように気遣い・考えるのかを、それぞれの人の視点及びその人を取り巻く社会・文化、政治・経済的、歴史状況を鑑みながら、観察、聞き取り資料調査を駆使して明らかにし、その知見から人が身体とともに生き、死んでゆくことの意味を包括的に明らかにしようとする学問。

いそのまほ

なんだか緊張しましたが、これが私の考える文化人類学、医療人類学の定義です。

あ、論文とか真面目な文章を書くときは引用しないでくださいね。そういうときは「辞典」をひきましょう。「文化人類学辞典」というちゃんとしたのがありますから。

注2:多分私の定義は人類学者からみると人間中心主義すぎると批判されそうな気もしますが、とりあえず私の定義としてはこうしておきます。余計混乱させてごめんなさい。

文化人類学・医療人類学の二つの魅力

もともと運動生理学をやっていた私にとって、文化人類学・医療人類学の魅力は、調査対象者の視点に立とうと努力することです。この「努力する」というのが肝心で、相手の視点に完全に立つなんてできないけれど、様々な工夫を凝らしてその視点に立とうと「努力」するのです。

「調査対象者」という人間の視点に立つだけではなく、動物やモノの視点に立とうという研究も21世紀に入ってからは増えていて、これも面白いところと言えるでしょう。

もう1つの魅力は、統計調査のような鳥の目の視点で数字を使って人間を明らかにするのではなく、個々の具体的な生き方から人間とは何かという壮大な疑問に迫ろうとすることも、この学問の魅力だと思っています。

注3:最近多くの文化人類学者は「文化」という言葉を使わないようになり、自らも人類学者と名乗る人も増えています。これには文化をめぐる少々こんがらがった問題があり、関心のある方はティム・インゴルドによる「人類学とは何か」(亜紀書房、奥野克巳・宮崎幸子訳)などをお読みください。

トップのオレゴンの写真はなんですか?

医療人類学との出会いは、オレゴンでした。

でもオレゴン州立大学の修士課程に進むため早稲田大学から成績証明書を取り寄せた時、この認識は間違っていることがわかりました。

成績証明書を見てあらびっくり。「医療人類学 A」とあるじゃないですか。記憶を辿ると先生が黒板にどこかの民族の薬の作り方を記載していて、そこに「クコの実」と書かれていたこと、「あ、ナウシカで出てきた」と思ったことがよみがえりました。

でもそれ以外何も覚えていない…

学部生の講義の記憶なんてこんなもの、というのは私が講義を持つ際の大切な視点になっています。

ちなみにナウシカで出てきたのは「クコ」ではなく、「チコ」なのでした。

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