どうして「どく社」 から出版されたの?/『「能力」の生きづらさをほぐす』(勅使川原真衣 著)の執筆伴走にあたって

どく社さんに原稿をお願いした理由

おかげさまで好評をいただいている『「能力」の生きづらさをほぐす』(勅使川原真衣 著)。

版元さんは、大阪にあるどく社さんですが、この本で始めて「どく社」を知った方も多いのではと思います。それもそのはず。なぜならどく社は2021年に創業したばかりの新しい版元さんで、本書以前に出版した本は『学校の枠をはずした』の1冊のみだから。

このブログでは、なぜ私がどく社さんに原稿をお願いしたのかをお話しします。

もくじ

出版社選びの迷走は避けたい

勅使川原さんを本格的に手伝い始めた2021年夏。この段階での第1目的は出版ではありませんでした。というのも、勅使川原さんが一番メッセージを届けたい相手は、出版がなくとも届く相手だったからです。

ただ彼女の話を聞き、原稿を読む中で、本にする価値も感じていました。勅使川原さんにも可能なら書籍にしたいという思いが強くありました。このような過程を経て、原稿がいくつかの章としてまとまってきた2021年10月に具体的な動きをとることにしたのです。

実は、初作出版の際、版元が見つかるまで1年以上かかったという苦い思い出が私にはありました。

なぜ苦いかというと、編集者から頂く「原稿のダメな点/出版できない理由」についてのアドバイスに沿い当時は書き直しを繰り返したのですが、今振り返るとその書き直しに意味があったとは思えないからです。

ただこの苦い経験は、「アドバイスのあり方」を考えるきっかけとなりました。この思考から得た視座は、執筆伴走にも生かされています

もちろんそれは磯野の「能力」がないせいで、勅使川原さんなら1発OKという可能性ももちろんあったでしょう。

ですが勅使川原さんの状況を考えた時、版元探しで彼女が膨大な時間を使う状況に陥る可能性は少しでも減らしたいと思いました。したがって、版元探しは私が担当し、勅使川原さんはとにかく書き続ける。その環境を作ることがこの段階での1番のお手伝いと考えたのです。

いくつかの版元さんが思い浮かぶ中、一番初めに打診したのがどく社さんです。

共同代表の多田智美さんと原田祐馬さんなら、この原稿を本にしてくれるのではないか。そう思いました。

きっかけはXSCHOOL

お二人との出会いは、福井市が主催したXSCHOOL2020 。これは、福井の文化風土や産業を探索し、社会の動きを洞察しながら、未来に問いを投げかけるプロジェクトを創出する80日間のゼミです。

2020年の医療はテーマだったため、アドバイザーの一人としてプロジェクトに関わらせていただきました。そこにプログラムディレクターとしていらっしゃたのが、多田さんと原田さん。

XSCHOOLでは参加者がそれぞれプロジェクトを立ち上げその実現に向け進んでいくのですが、お二人が受講生に投げかけるメッセージが私はとても好きだったのです。

無難にまとめよう、表層的に綺麗にしよう。

受講生がそこに走りそうになる場合、それを察知して奥にあるもっと大切なことに参加者を導こうとする。あーしろ、こーしろというのではなく、方向だけ指し示す。そんな印象を受けました。

その後も多田さんが編集をするメディアでお仕事をさせてもらったり、グッドデザイン賞の企画で原田さんと対談をさせてもらったりする中で、お二人の感性と価値観への信頼が高まっていきました。

なんだろう。お二人が作り出すものには、独特の「間」があって、なんかそれがいいんです。

このお二人なら、手元にある原稿の意義を読み取ろうとしてくれるだろう。本を初めて書く勅使川原さんと、1作目を出したばかりのどく社の共創。もしかするとここから面白いものが生まれるかもしれない。そう思いました。

どく社さんに決定してからの歩みと、伴走を終えるまで

多田さんに初めてご連絡したのは2021年10月末。その後いくつかの章をお渡しし、どく社第2弾の本としてやってみたいというご返信を12月にいただくことができました。

その後、勅使川原ー磯野間の頻回な原稿のやりとりを経て、2022年7月のミーティングを最後に私は積極的に関わる立場から退きます。いつまでも伴走しているのは良くないという思いがあったからです。

従ってそれ以降は、どく社取締役の末澤さん、多田さんに原稿を委ねることとし、本は急ピッチでどんどん完成に近づいていきました。出版後も、書店周りや魅力的なポップなど丁寧な販促活動を続けてくださり今に至っています。

本は電子、という方も多いとは思いますが、この本は電子で読むと良さが半減します。

というのも、紙質、カバー、インクの色など、電子になるとなくなってしまう隅々に、編集の末澤さん・多田さん、デザイン担当の原田さん・岸木さんの創意工夫が入っているからです。そして紙でなければ、それを形にしたベクトル印刷さんの技術も味わえません。

印刷のこだわりにもぜひ着目を。ぜひ「ふれて」ください。装画・挿絵は中山信一さん。

ご縁の始まりは早稲田の元学生さん

XSCHOOLでの関わりが、どく社さんに原稿が持ち込まれるきっかけとなったわけですが、実はこの話には「その前」があります。

それが白井瞭君。白井君は、早稲田大学助教だった時の学生さんで、現在は、Re:publicでシニアディレクターとして活躍しています。彼がXSCHOOLアドバイザー就任の依頼をくれました。

白井君は印象に残っている学生さんの一人。なので、彼が受けていた演習の名前(医療人類学)や、発表担当になった課題図書の名前(「PTSDの医療人類学」確か3章)まで覚えています。

「授業の手を抜かなかった」ことは、かつて大学教員だった私が唯一誇れることなのですが、こんなところでそれが生きてくるとは思ってもいませんでした。

白井君の語りかけがなければ、この本がどく社さんから出版されていることは絶対になく、改めてご縁の深さを感じます。

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